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名古屋に、「絶品のビーフシチューを食べられる」と評判の店がある。中区新栄の『kitchen 俊貴』は、フーディー達の間ではとうに周知された知る人ぞ知る名店だ。その頭角は2019年の開業直後に現れる。千種区の閑静な住宅街に佇む、決してアクセス便利と言えない店だったにも関わらず、わざわざ探して遠方からも客が訪れた。快進撃は止まらない。2022年に都心部へ移転し、高級レストランさながらの雰囲気の店に仕立てると、ワインによく合う洋食を求める客で予約の取れない1軒となった。オーナーシェフの阿井俊貴氏が追求し続けるのは、洋食というカテゴリーを超越した本格洋食。古典的なレシピに現代の技術を掛け合わせ、日々研究を重ね続ける。“町の洋食店”とは一線を画した味わいとの出会いが、ここにある。

kitchen 俊貴 阿井 俊貴氏

あい・としき●静岡県出身。小学生のときに訪れた鮨屋で、客との会話を楽しみながら握る大将の仕事ぶりが目に焼きつき、「カウンターのある店の料理人」になりたいとの思いを抱く。中学卒業後は鮨屋修業をと考えたが、親の勧めもあり高校に進学。在学中、アルバイト先のファミリーレストランで洋食メニューに興味が湧き、洋食の道を志す。名古屋・一社の人気洋食店『キッチン雅木(現在は閉店)』で14年、その後、『ビストロダイア』『kitchen NOMU』など名だたる店で腕を磨き、2019年、千種区京命で『kitchen 俊貴』を開業。2022年5月、中区新栄でリニューアルオープン。

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kitchen俊貴とは

“洋食”をクリエイティブなステージへと押し上げた名店

洋食は、西洋のさまざまな料理が日本人の味覚や食習慣に合わせて発展してきた。カレーライスやコロッケ、オムライスに代表されるように、どこか懐かしく、そして老若男女に親しまれる味わいのもと、料理ジャンルの中でも肩ひじ張らない庶民的なポジションを受け持ってきた。そんな既成概念を覆したいと考えているのが、この道を20年以上極めてきた『kitchen 俊貴』の阿井俊貴氏だ。

「洋食は下準備から時間をかけて作る料理が多いのですが、そうしたプロセスよりも価格の安さと量の多さが重要視されてきました。そんな背景もあり、ビジネスとなると薄利で商売につなげるのが難しい世界です。それでも手間を惜しまず、味を突き詰めていくのが私たち料理人としての矜持だと思っています。決まったメニューだからこそ、お客様をどう驚かせ、どう喜んでいただくか。日々、“深さ”への挑戦をしている感じです。」

おだやかな口調だが、瞳の奥には阿井氏のブレない意志が垣間見える。

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おだやかな口調だが、瞳の奥には阿井氏のブレない意志が垣間見える。スペシャリテのビーフシチューは、仕込みに1週間かける。洋食店の基本作業はともすればルーティンにもなりかねないが、味の土台が決まる大切な工程だけに阿井氏が妥協することはない。食材の選定にもこだわり、ハンバーグには黒毛和牛A5ランク100%を使用するのが俊貴流。丁寧な仕込みに加え、食材でも差別化を図ることで、“町の洋食店”とは明確に一線を画す。こうして生まれた「単なる洋食店ではない味わい」がゲストを魅了し、たちまちなかなか予約の取れない店となった。

カウンターで客と対峙する寿司屋に憧れた少年が洋食を極めるまで

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小学生の頃には「料理人になりたい」という夢を見つけた阿井氏。その原点は、意外にも鮨屋だった。

「父の友人にお鮨屋さんに連れていってもらったんです。カウンター越しに大将がお客さんと話しながら、その手は止まることなく握りを一貫ずつ手渡していくんですが、その楽しそうに仕事をされている姿が、小学生ながらカッコよく見えたんです。」

カウンターのあるお店の料理人になりたいー。そのとき抱いた思いは消えることなく、中学3年生になり進路を決める際、阿井少年は「お鮨屋さんで修業したい」と父に伝えた。

「料理人になるにしても高校は出ておいたほうがいい、と父親から言われ、高校の普通科に進学しました。在学中から卒業後まで打ち込んだのは、ファミリーレストランでのアルバイトで。幅広いメニューがある中で、とくに洋食が老若男女を問わず喜ばれていることに気づいたんです。それで洋食に興味が湧いて、洋食レストランの求人を見つけて就職しました。」

阿井氏が門を叩いたのは、名古屋市名東区にあった『キッチン雅木(現在は閉店)』。和牛100%のハンバーグや、ベシャメルソースから丁寧につくるカニクリームコロッケなど、本格的な洋食を提供するレストランとして定評のあった同店で、基礎から技術を身につけていった。その後、14年間勤めた『キッチン雅木』が惜しまれつつ閉店することになり、阿井氏は『ビストロ ダイア』で2年、『kitchen NOMU』で3年と、さらなる研鑽を積む。洋食はメニューこそ定番ながら、作り手次第でその表現法は無限にある。研究熱心な阿井氏は、先輩シェフのもとで一層スキルを高めていった。

「『kitchen NOMU』で働いていた頃、自分のお店は持たないのかとお客様に聞かれて。いつかは持ちたいですが、ツテがないと答えたんです。すると、そのお客様が不動産を紹介してくださって、そこからトントン拍子で場所や施工業者が決まっていきました。」

機は熟した。2019年、阿井氏は40歳を手前に名古屋市の北東に位置する千種区で自身の名を冠した洋食店を開業。近隣からは『キッチン雅木』の味を懐かしむ客がその系譜を継ぐ店として訪れ、同時にSNSでこだわりの洋食が評判を呼び、他府県からも客がやってきた。

「ありがたかったですね。ですが最寄りの地下鉄駅が徒歩30分と、お客様にご不便をおかけすることも多くて。お客様から移転を勧められるほどでした。そんなタイミングで以前働いていた『ビストロ ダイア』が別の場所で店を開くことが決まり、阿井君が入ったらどうかとお声かけいただいて。まだ独立して2年目で迷いましたが、娘が誕生したのをきっかけに、家族のために店を大きくしようとこの新栄に移ることにしました。」

洗練された洋食の味に惚れ込んだ客が独立を後押しし、確かな腕を見込んだ先輩シェフが自身の店舗跡を譲り渡した。全て、阿井氏のひたむきな姿勢と実直な人柄が引き寄せた縁だ。2022年、『kitchen 俊貴』は飲食店が林立する中区新栄で新たなスタートを切った。

「アクセスが良くなったことで、名古屋だけでなく東京や大阪など県外、時には海外からのお客様もいらっしゃるようになりました。これからもいろいろなお客様に来ていただけるよう、料理も店も工夫し続けたいと思います。」

変わらぬ味と進化する味との間でせめぎ合う「洋食」の地位向上を目指す

たかが洋食、と侮ることなかれ。阿井氏のつくる料理の一皿ひと皿に、その製法と食材への徹底したこだわりが散りばめられている。洋食は戦後、日本独自で発展してきた歴史があり、誰もが慣れ親しんだ味わいがあるが、『kitchen 俊貴』はそれとは別だ。洋食の基本は忠実に守りながら、柔軟な思考で食材と調理方法に向き合う。洋食のさらなる美味しさを求め、進化することを恐れない。

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時に非効率とも思えるような調理工程や材料選びも、阿井シェフのこだわりの一つとなる。

「ブラウンルウに焼いた牛骨と香味野菜を合わせて3、4日煮込んでデミグラスソースにします。それとは別に前日から赤ワインでマリネしていおいた牛肉を串が通るくらいまで8時間ほど煮込み、そこに仕込んでおいたソースを合わせて、さらに煮込んで仕上げます。本来のデミグラスソースの味わいはこういうものだと感じていただければうれしいですね。」

完成するまでに1週間近くを費やし、ビーフシチューは味わいに奥行きのある絶品に仕上がる。「それが3日では味が薄く、5日でも物足りなさを感じるんです」と阿井氏は微笑む。看板メニューになるほど愛されるのは、たゆまぬ努力に裏打ちされている。洋食にはフライをはじめ、パンチの効いたメニューが多い印象もある。

「確かに、重たい料理が多いです。なので、食べ終わった後、くどさや胃もたれを感じさせないように心がけています。たとえば使用する油。うちでは"サラダ油"や"ラード"は使わずにコーンサラダ油と、北海道十勝で育ったマンガリッツァ豚のラードを使っています。原材料は少し高くなりますが、少しでも軽く仕上がるようにしています。」

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多くの人が頼むハンバーグ&タラバ蟹のクリームコロッケなど素材へのこだわりだけでなく見た目にも美しい料理が多くの人を魅了する

目指しているのは、洋食の地位向上。フランス料理やイタリアン、和食といったステータスある料理のステージに、洋食も肩を並べる未来を作りたいと、阿井氏は考える。「洋食においての“昔ながらの変わらない味を守り続ける”ということも大切だと思っています。それでも、新しい食材や技法はチャレンジし続けたいですね。失敗もするでしょうが、そんな経験も糧に、洋食をもっとアップデートしていきたいと思います。」

CHEF’S COMMENTS

シェフからのひとこと

お店のこだわりである丁寧なお料理を、自宅で気軽に味わっていただきたいと思い、商品を監修させて頂きました。

「今回はワインに合う洋食」をテーマに4種類の料理をご提供しております。お肉やシチューの味わいを大事にしながら、だけれどクドくない、大人の美味しい洋食になっているかと思います。

ぜひお気に入りのワインとともにお楽しみください。

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