京都を代表する花街、祇園。「にくの匠 三芳」は、古都の風情が漂う花見小路を東に入った松竹小路に佇んでいる。提供するのは牛料理のフルコースのみ。店主の伊藤力氏が、その日仕入れた極上の和牛を部位、切り方、温度と微に入り細をうがって一つの物語に仕立て上げる。牛料理という新ジャンルを確立し、なおかつアップデートし続ける“匠”の心意気。美食家ならずともゲストの舌と心を捉えて離さない、肉料理がここにある。
にくの匠 三芳 伊藤 力 氏
いとうつとむ●1975年、京都府出身。食べることが好きで10代から飲食業に興味を持ち始める。居酒屋のホールに勤務していた頃、肉食加工センターに勤務する先輩から食べさせてもらった鮮度の良い牛肉の味わいに衝撃を受け、上質な肉を提供する店の開業を決意。母がお店を営んでいた京都・祇園にて屋号と場所を受け継ぎ、2004年11月「にくの匠 三芳」を開業。ミシュランガイド京都・大阪2018〜2022にて 一つ星獲得。
にくの匠 三芳とは
捌きたての新鮮な牛肉の味わいが“肉道”への入り口に
優れた料理人が、みな名店で修行を積んでいるというのは既成概念にすぎない。「にくの匠 三芳」を営む伊藤 力氏もそうした一人だ。20代のとき、居酒屋でホールスタッフとして働きながら「いつか自分の店を」と漠然とした夢を抱くようになった。伊藤氏に大きな転機が訪れたのはその頃だ。
「学生時代の先輩が食肉加工センターに勤めていたんです。レバーが苦手やった僕に、捌きたての牛のレバーを一度食べてみろと勧めてくれて。当時はそもそも牛を捌くということ自体、特に考えたことすらなかったんで、新鮮な驚きがありましたが、先輩が持ってきてくれはったその日捌いたホルモンは衝撃的でした。レバーを食べるとプリッとした食感で全く臭みがなく、フルーツみたいな甘さすら感じて。ハラミもそれまで食べたものとは全く違っていたんです。」
伊藤氏が肉を語るときの熱量は相当なものだが、京ことばがそれを柔らかに伝える。フレッシュな牛肉のポテンシャルに「これで店をやったら流行る」と確信。そこからすぐ精肉店を紹介してもらい生産者を伝って、より美味しい牛肉を追求する日々が始まった。肉の知識はゼロからのスタート。料理も自己流だが不安はなかった。
すべては良い肉ありき。日々肉と会話しながら肉にしかできない最善を目指す
牛肉の品種や血統、肥育方法までも探求し続け、気がつけば20年余。仲買人との情報交換を密に、ときには生産者にも会いにいき、鮮度と味を第一に仕入れ先を選ぶ。そのスタイルは開業当時から変わらない。
「京都、滋賀、神戸と、いろんな牧場の牛を使いました。たどりついたのが滋賀県で純血但馬牛®️の雌牛を専門に肥育している岡崎牧場だったんです。脂がきめ細かく入り、重たくない。むしろ軽くて甘みがある。その脂質を支える肉自体の旨味も強い。コースの後半にシャトーブリアンのステーキでもお出ししていますが、数が足りない分は、都度、神戸牛の極上のヒレも仕入れています。」
「但馬牛®️」とは兵庫県産牛のひとつで、血統から育て方、肉の出来まで非常に厳しい基準が設けられている。まず素牛は兵庫県の県有種雄牛のみを歴代にわたり交配した但馬牛でなければならない。 そして繁殖から出荷するまで神戸肉流通推進協議会に登録された生産者が「兵庫県内」で飼養管理し、「兵庫県内」の食肉センターに出荷するという決まりまである徹底ぶりだ。 そこまで徹底的に管理された生後28ヵ月令以上から60ヵ月令以下の雌牛・去勢牛で、歩留・肉質等級が「A」「B」2等級以上の牛のみが「但馬牛®️」の称号を得られる。※
※出典:神戸肉流通推進協議会 但馬牛®️の定義
もっとも、伊藤氏はブランド牛へのこだわりはない。「より良いものを」を追い求めた結果、和牛のルーツと言われる但馬牛®️に着地した。岡崎牧場に限らず、その時の料理に合った和牛も仕入れる。そして塊で肉を見て触って味見して、伊藤氏が納得した肉だけがコースに並ぶ。
肉の選定に多くの情熱をかける伊藤氏はゲストに楽しんでもらうべく、調理法もまた常に最適解を探し続けている。
「食べることが好きなんで、たとえば魚料理のお店に行ってもこれを肉料理で表現できないか、この感覚の椀を肉で提供するならどうできるかと、常々考えています。コースって僕にとっては頭の中を見せるようなものなんです。日々自分が肉や料理と向き合っていく中で見つけたことや、それを通して考えたことをコースに仕立てています。ストーリーでお客様に共有したいですし、それを受けたお客様がええなぁと思ってもらえたら嬉しいですしね。説明しなくても感じてもらえるものにしたいですね。」
「ホワイトトリュフと自家製コンソメのスープ」や「香茸の天ぷら 岡崎農場産牛の生ハムを添えて」など肉の新しい美味さを体験できる
三芳を代表するメニューの一つ「牛タンの昆布締め」も、伊藤氏の飽くなき探究心から生まれた一品だ。
牛タンの刺身は関西では比較的ポピュラーな料理で、多くの店が客前でタンを切って鮮度の良さをアピールし、ある程度の厚みで切って提供する。しかし、伊藤氏はこの肉がもっと美味しくなる調理法があるはずだと、さらなる高みを模索した。
ある日行きつけの寿司屋で、こんな風に肉を出せないものかとふと思い立つ。
「肉と魚の違いは、その“固さ”にあります。魚では耐えられない薄さまで牛肉はカットできますし、タンならもっと薄くできます。新鮮なタンを極薄に切ったら、これまで誰も体験したことのないツルッとしてプリプリな食感を提供できるんじゃないかと。そこに旨味を足したらさらに美味しくなると思い、昆布締めにしました。」
牛肉にしかできないことはなにか。この牛肉は新しくどういう美味さを引き出せるのか。伊藤氏の牛肉に対する情熱はこれまでにない肉の旨みに気づく体験を世に提供し続ける。
三芳のスペシャリテ「牛タンの昆布締め」。つるりとした口当たりと肉の旨味は多くの美食家を驚かせる。
和牛の魅力を知り尽くす匠が贈る、肉の旨味を堪能する逸品
その名称に英語で敬意を表す“サー(Sir)”を冠した、牛肉の中でも最高級の部位であるサーロイン。柔らかくジューシーなサーロインの「脂身の甘さと味わい、肉の旨味を堪能してもらいたい」と、伊藤氏が考案したのは白味噌漬け。使用しているのはきめ細やかな脂身を持った黒毛和牛で、白味噌のまろやかな甘みと香りがサーロインの風味を引き立てる。
神戸牛ホルモンの赤味噌漬けは、カジュアルに楽しんでほしい一品。本来、ホルモンは様々な牛の内臓が寄せ集められて卸されるところ、このメニューはなんと個体識別番号を持つ神戸牛のホルモンのみを採用した。
どちらも適度な水分と味わいを急速冷凍機を活用することで担保した。解凍してフライパンで焼くだけで、京都に行かずして匠の味が満喫できる。
CHEF’S COMMENTS
シェフからのひとこと
和牛の最大の魅力は“脂の旨さ”だと思っています。和牛サーロインの白味噌漬けには全国から選りすぐられた黒毛和牛のみを使用していまして、サーロインは肉の脂を堪能してもらえる、うってつけの部位です。本商品はそんな肉の旨味をご家庭で最大限楽しんでもらうにはどうすればよいかと考えて作った一品です。大切りにして見た目も豪華になっていますので、贈答用にもご利用いただけたらと思います。
また神戸牛ホルモンの赤味噌漬けは、個体識別番号を持った神戸牛のみを使用しています。良い餌を食べた良い牛の内臓ですから、かなりよい質の脂をもったホルモンです。赤味噌の味がしっかり入っているので野菜炒めや焼きうどんなどへのアレンジもおすすめです。
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