

京都駅からタクシーで北上すること約25分。車窓の景色に古都の風情を探しているうちに、閑静な住宅街にたどり着いた。「ようこそ」と言わんばかりに迎えてくれるのは、壁いっぱいに書かれた漢詩。宵闇に浮かぶ幻想的な雰囲気が、これから始まる美食時間へと気持ちを駆り立てる。シェフの上岡誠氏が提供するのは、哲学のある中華。レシピや食材ありきではなく、自分の考えありきの調理法で素材の可能性を最大化。その滋味深い料理に心酔するリピート客さえも予約は一年待ちということで、フーディ界隈からも熱い視線が集まっている。
仁修樓 上岡 誠 氏
うえおかまこと●1983年、京都府出身。共働き家庭に育ち、小学生の頃から調理を身近なものとして楽しむ。外食で慣れ親しんだ大衆中華を原体験に、中学卒業後、料理人の道を志す。調理師専門学校時代、「京都ホテルオークラ」でアルバイトをしたことを機に、「ホテル日航大阪」「エクシブ有馬離宮」などで研鑽を積む。杭州をはじめ中国各地へ度々訪れ、広東・香港料理を体得。自分の料理を追求すべく36歳で独立。2019年、京都市北区にて「 仁修樓」開業。

仁修樓とは
ホテル料理長を目指した20代。自分の料理哲学を追求し始めた30代
中学卒業後すぐ、料理人を目指した上岡氏。影響を受けたのは、当時の人気テレビ番組「料理の鉄人」だった。一流シェフがキッチンスタジアムで腕を競い合う姿に上岡氏も憧れと夢を抱き、大勢のシェフを従えて料理を作り上げる、ホテルの中華レストランでアルバイトを開始した。
「厨房で皿洗いをしながら、調理の現場をよく眺めていました。忘れられないのは東坡肉(トンポーロー)。輝くテリが実に美味そうで、あれをしこたま食べたい!と。それで当時限られた自分のお金の中から豚バラ肉や調味料を買い求めてレシピ本を見ながら調理したのが、思えば料理人としての第一歩でした。」

上岡氏が修業時代の忘れられない料理として挙げた「東坡肉(トンポーロー)」。上岡氏独自の調理工程も加わり更なる進化を遂げている。
まだ仕込みの手伝いも許されなかった16歳。休日になると元町の中華街へ出かけ、XO醬といった調味料や調理器具を買い足し、上岡氏は誰に習うでもなく自主的な技術向上にも努めた。やがて調理を任されると、ホテルの厨房ならではの分業化や効率重視の調理法に疑念を抱くようになる。
「本来であれば繊細な味へと構築していくはずの調理工程を、端折っているふうに感じたんです。もちろんホテルですから一定水準をクリアしていますが、ホテルの料理は誰が作っても料理長の料理。私はたとえ手間がかかっても、自分の哲学を反映した自分の料理を表現したくなったんです。」
レシピや食材ありきでなく、自分の哲学ありきの料理
上岡氏はホテルの厨房で中華鍋を振りながら、料理における個性や独自性はレシピや食材以上に“誰が作った料理なのか”に体現されるものだと行き着く。
「極論を言えば、全く同じレシピであっても作り手によって味はもちろん、料理そのものが大きく変わる。つまり自分が作るからこそ、自分らしい料理になるんです。そこには自分の中にある深い考察や意識、そしてこれまで積み重ねてきた肌感覚が不可欠だと思うんですね。そうした意味でも、どのような工程も簡略化せず、すべて丁寧に調理することが私の哲学であり、その積み重ねが自分の料理になっていると思っています。」
お客さまにお出しする際の完成度を追求するがゆえに、上岡氏が仕込みに掛ける時間は計り知れない。手間 のかかる工程こそ上岡氏は手を抜かず、スタッフと共に肩を並べて黙々と作業に勤しむ。

たとえば、キヌガサダケにフカヒレを詰めて蒸した料理。きのこの女王と名高いキヌガサダケの、そのレース状の網の中に細かな繊維にほぐしたフカヒレが数十本ずつ詰められた精緻な一品なのだが、上岡氏が自ら下ごしらえに取り組んでいた。こちらの作業は誰かに任せないのかと尋ねると、思いがけない回答が返ってきた。
「ただ詰めているように見えるかもしれませんが、フカヒレの繊維の向きや大小のバランスが変わると、味わいはもちろん、お客様の口当たりまで変わってくるんです。それだけに、この作業や手間の意味合いまで理解した上で仕込みをすることが肝心になってくる。任せていたこともありましたが、結局、自分でやってしまうんですよね。」
そう言いながらも、フカヒレを1本ずつ詰めていく上岡氏の手が止まることはない。伝統工芸の職人さながらの端正な手仕事ぶりに、感銘を覚えた。こうした緻密さこそが上岡氏の語る哲学であり、舌の肥えたゲストに愛される理由と言える。


お店のスペシャリテである干し鮑の煮込み(写真:左)は、1週間かけてじっくり鮑を戻し、余分な調味料を使わず深い滋味を感じる味わいへと仕上げていく。
食材の滋味を大切に、お客さまの足が自然と向くような店に
小有余芳洒一杯
水邊亭子長莓苔
黄雞白菜尋常味
一到村頭便好来
エントランスに掲げられた漢詩には、上岡氏の「仁修楼」への想いがのせられている。

「一杯の酒を小さな居酒屋で飲む。店の窓から、川のせせらぎに揺れてなびく苔が見える。名物の白菜と地鶏の料理は食材そのものの味しかしない。しかし村へ来るたび、あの味を思い出し、自然と店に足が向いてゆくー。この漢詩は食事の情景やその空間、そして食材そのものの味わい大事にする関東料理の世界観を表現したもので、私にとっては広東料理の素晴らしさを教えてくれた詩でもあります。私の技術や精神はまだ道半ばで、日々より良いものを模索している最中ですが、この滋味深い世界を皆さまと共に味わい、楽しんでいただきたいと思います。」


料理だけでなく食事をする空間はもちろん食器や装飾品など細部にもこだわる。
漢詩の世界観を料理で体現し、訪れるゲストを魅了し続ける仁修樓。長らくリピート客だけで予約一杯だったところ、2024年からは新規の予約受付を開始。噂を聞きつけたフーディによって、その予約も現時点では1年先まで入っているそうだ。上岡氏のひと皿一皿繊細な味わいと出会うことで、お客さまへのおもてなしの心と料理に対する真摯な姿勢を感じることができるだろう。
CHEF’S COMMENTS
シェフからのひとこと
お店の味わいをご家庭で楽しめるよう、厳選した食材を使用し、仕込みから調理まで一切妥協せず、心を込めてお作りしております。
海老チリは丁寧に海老の旨味を抽出した特製ソースがプリプリの海老と絶妙に絡み、東坡肉(トンポーロー)は煮て、揚げて、煮込んで、蒸して、寝かして・・・と5つの工程を10時間かけて調理をし、とろけるような食感に仕上げました。
丁寧に仕込みをしておりますので、調理は簡単です。温めるだけで本格中華の味わいを楽しめます。ご自身へのご褒美や、大切な方への贈り物としても最適です。ぜひ、ご家庭で仁修樓の味をご堪能下さい。

このお店の商品
名店のこだわりを知る

仁修樓 / 上岡 誠 氏
独自の料理哲学で滋味深い世界へと誘う国内でも指折りの中華の名店

にくの匠 三芳 / 伊藤 力 氏
和牛への深い愛情とあくなき探究心で肉愛好家を魅了する今日の肉料理専門店。

PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI / 岩柳 麻子 氏
美しさと美味しさを兼ね備えた菓子を求め全国からファンが訪れる名店。

京天神 野口 / 野口 大介 氏
趣向を凝らした料理と温かいおもてなしで人々を魅了する京都の名店。完全予約制。

やまぐち / 山口 正 氏
完全紹介制にも関わらず2年先まで予約が埋まる京都祇園のイタリアンの名店。

緒方 / 緒方 俊郎 氏
「ミシュランガイド京都・大阪2010」以来、二つ星を獲得し続ける京都の名店。

ビリヤニ大澤 / 大澤 孝将 氏
予約受付開始と共に即満席となる完全予約制のビリヤニ専門店。

カルパシ / 黒澤 功一 氏
1日24食限定で週4日営業という狭き門。スパイスカレー界きっての 予約困難店。

焼肉ジャンボ / 南原 範充 氏
都内3店舗を展開する焼肉専門店で全国屈指の予約困難店。予約は常に1~2ヶ月待ち。

Nabeno-Ism / 渡辺 雄一郎 氏
「ミシュランガイド東京 2017」で一つ星、「ミシュランガイド東京 2019」から二つ星を獲得。

鳥しき / 池川 義輝 氏
「ミシュランガイド東京・横浜・鎌倉 2011」で一つ星を獲得。

カッチャルバッチャル / 田村 修司 氏
「ミシュランガイド東京2023」でビブグルマンを獲得。

柳家 / 山田 和孝 氏
「ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版」で二つ星を獲得。

4000 Chinese Restaurant / 菰田 欣也 氏
四川料理の源流で30年間、研鑽を積んだ技術。

マンチズバーガー シャック / 柳澤 裕・裕美子 氏
国内外から高い評価を得ており、海外VIPも歓喜した名店。

シバカリーワラ / 山登 伸介 氏
カレー激戦区・三軒茶屋で常に行列が絶えない。TVにも多く取り上げられる人気店。

TACUBO / 田窪 大祐 氏
「ミシュランガイド東京2017」以来連続掲載。毎月、すぐに満席になる予約困難店。

とんかつ成蔵 / 三谷 成蔵 氏
「ミシュランガイド東京 2017」以来掲載(ビブグルマン)。とんかつ業界をけん引する名店。

銀座しのはら / 篠原 武将 氏
「ミシュランガイド東京 2018」から一つ星。「ミシュランガイド東京 2020」以降二つ星獲得。

金色不如帰 / 山本 敦之 氏
「ミシュランガイド東京 2019」以降連続で一つ星獲得。世界最高峰のラーメン店の一軒。