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「静岡に、東京や関西方面からわざわざ新幹線で客がやってくる店がある。」フーディたちをそう色めき立たせる「勢驎」は、JR浜松駅から徒歩10分ほどの繁華街にある。目印は、鮮やかに鯛が跳ね躍る紅白暖簾だ。日本料理店だが、提供するのは懐石でも割烹でもない、おまかせ料理。店主の長谷部敦成氏は「その時期に最も輝く食材」に焦点を当てる。春は「天ぷら屋」、梅雨どきは「ハモ屋」、夏は「鰻屋」、冬には「ふぐ屋」と、旬の食材を主役に料理を再構築し、まるで衣替えでもするかのように業態を一つだけに留めない。春夏秋冬、旬の味を集中的に味わう至高の食体験を提供する静岡屈指の名店。

勢麟 長谷部 敦成 氏

はせべ・あつなり●1989年生まれ。高校卒業後、19歳から料理の道へ。2013年より静岡県浜松市にある日本料理の名店「勢呂久」に入り、食材に対する目利きと食材を生かす調理技術を磨く。学生時代に波乗りで駿河の海に訪れて以来、遠州灘と向き合い、浜名湖の風土が育んだ豊かな食材に魅了され、2018年に日本料理「勢麟」を開業。

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勢麟とは

食材の宝庫・浜松で、一年で異なる四つの専門料理を味わう贅沢

浜名湖の天然鰻を筆頭に、遠州灘のトラフグ、天竜川の鮎などなど、静岡県浜松周辺の食材のポテンシャルの高さは全国トップクラスと言える。「日本料理 勢麟」の店主、長谷部氏は、四季折々の浜松の食材が持つ味わいの力強さにフォーカス。「その時期にしか体験できない味」が価値の核心となる。

一般的に日本料理店では、先付に始まり、椀物、汁物と懐石料理の仕立ての中で旬の食材を取り入れていくが、「勢麟」は“店そのものが季節ごとに変わる”。日本料理店の概念に縛られることなく、旬の食材の魅力を最大限に引き出すことだけに注力を注ぐ、型破りな店なのだ。

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旬の主役食材に全てのリソースを集中させ、4〜5月は山菜や天然車海老、穴子を主役にした天ぷらを、6〜7月はハモ、8〜10月は鰻、11月頃からはフグと、提供する料理が物の見事に変貌する。この変化は単なるメニューの入れ替えではない。長谷部氏の「その時期に最も輝く食材に徹底的に焦点を当てる」という哲学のもと、店のコンセプト、調理法、そして職人の意識まで、すべてがその季節の主役食材のために再構築される。

同じ店でありながら、訪問する季節によって異なる専門店の味わいが待ち受けているのだ。そのワクワク感たるや。一枚板のカウンターに8席だけだが、目の前で店主が切り、焼き、盛る姿が期待値をさらに引き上げる。

鰹節と昆布に頼らず、旬の食材から引く「生出汁」の旨みの真骨頂

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「勢麟」の軸となるのは、長谷部氏の研ぎ澄まされた感覚にある。

「幼い頃は父親に連れられ、山菜採りや釣りによく出かけました。とれたてをその場で焼いて食べるのも美味かったですね。食べることは好きでしたが、給食はニガテでした。まず食パンが食べられない。おかずも化学調味料や添加物の風味が受け付けられませんでした。好きだったのは、母の作った冷や汁やぬか漬け。学校から帰ると勝手にぬか床から野菜を取り出して、よく母に叱られていましたね。」

長谷部氏は目尻にシワを寄せ、やわらかな口調でそう言った。自然の恵みが感じられる食体験で味覚を磨き、そこに食への興味が加わり、手に職をつけたいとの思いが相まって10代で料理の道へ。24歳で師事した「勢呂久」で、旬の食材の持つ「生きた味」を最大限に引き出すための全てを学んでゆく。

その技術・考え方のひとつが「生出汁(なまだし) 」である。

勢麟の基本となる出汁はメインとなる食材と水だけで引いた「生出汁」を使う。
ハマグリのお椀であればハマグリから、鰻の蒲焼のタレには鰻から出汁を引く。鰹節や昆布といった乾物をほぼ使用しないスタイルは、スタンダードな和食の常識を覆す。

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「『鰹や昆布で調理してしまったら全て同じ味になってしまう』と師匠がよく言っていました。料理は人が手をかけるほど、素材の良さって消えてしまうんです。味はつけるものではなく、補填するもの。だから僕は一つの椀に入れる食材は3つまでと決めています。たとえば、鯛ならカブとゆずの皮だけ。鯛と水と醤油だけのときもあります。このお椀なら(写真下)ハマグリとワカメと酒。他の食材を飾りで入れたりすると、それだけで味がバラついてしまうんです。」

鰹節と昆布があれば確かに美味い出汁が引ける。しかし、長谷部氏が大切にしているのは、味わいの純度。出汁の役目も、旬の主役食材に委ねる。

「出汁をとるだけのハマグリとか、そういうのを仕入れていたら、材料費が3倍ほど跳ね上がった」と長谷部氏は笑うが、極上の食材から引かれた生出汁は料理全体の骨格を成すだけでなく、食材の個性が他の要素に埋没することなく、生きた味としてピュアに表現される。これもまた、採点に厳しいフーディがわざわざ新幹線でやってくる理由の一つである。

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ハマグリとお酒だけで丁寧に引いた出汁は口に入れた途端に口いっぱいに濃厚なコクと旨味が広がっていく。

料理の九割は目利きの力。日々300km車を走らせる妥協なき食材調達

「料理は人が手をかけるほど素材の良さが消えてしまう。」その考えから勢麟では提供する料理は焼く、煮る、揚げるといったミニマルな調理法がほとんど。だからこそ日々の技術の研鑽はもちろんのこと、食材調達については一切の妥協を赦さない。

長谷部氏はほとんど毎朝、漁港へ出向く。ふぐの時期は同じ浜松市内の舞阪漁港だけでなく、静岡県なら御前崎や磐田市の福田、さらには愛知県の伊良湖まで足を伸ばし、納得のいく食材と出会うまで、港で半日以上粘ることもある。鴨の時季は自ら狩猟に出かけることを厭わず、気がつけば週に300km以上も車を走らせる。

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豊富な栄養と穏やかな水中の環境が豊かな食材を育む浜名湖

「浜名湖や遠州灘は養分や気候に恵まれた本当にいい漁場です。ですから”美味しいと言われるお魚”に出会うことは難しいことではありません。でも自分が求めている味はそうではないんです。どれだけ鮮度のいい鯛でも傷があれば酸味が出てしまう。一方、最良の環境で育って傷一つなく水揚げされた鯛がストレスなく締められると、口に入れた瞬間に香りが広がり、噛み締めるほどに旨味が感じられるんです。

水揚げされた100尾の鯛のなかにきれいな甘鯛が1尾入っていたりする。僕が仕入れたいのは、市場には出回らない宝探しのような食材。その目利きは仲卸さんはもちろん、スタッフにさえ任せられないんです。それが、私の提供したい美味いを超えた『奇跡のような、生きた味』なんです。」

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取材をさせていただいた6月。手のひら一杯の大きな大きな天然ハマグリを見せて頂いた。

何を仕入れるかはその日の目利き次第。納得する食材がなければ買うことはない。客が感動するほど美味しいという味は、長谷部氏自身が知っている。だからこそ、良い食材探しのためには労を厭わず、自分の足を使い、目を凝らし、「生きた味」を追い続けるのが長谷部氏の流儀だ。

お店には一際大きい「一以貫之」という書が掲げられている。「一以貫之」~ 一つの思いをもってこれを貫き通す。食材が持つ力強い「生きた味」を探求し続ける長谷部氏にこそ相応しい言葉ではないか。

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目利きと焼きにこだわり、天然鰻に負けない風味と香りを実現した極上鰻

店を構える静岡県浜松市は食材に恵まれた地域だが、特に鰻は浜名湖名産品の一つ。

「鰻にこだわりを持つようになったきっかけは、修行先だった『勢呂久』でたくさんの鰻に触れた体験からです。師匠の目利きが凄かったのですが、仕入れた中に奇跡のような味を持つ鰻があって。それは味わいが全然違うんです。天然鰻と養殖鰻の最大の違いは香りと旨みだと思っています。鰻は雑食なのですが、甲殻類、特に車海老を沢山食べて育った鰻は、焼いたときにバニラのような良い香りを放つんです。アミノ酸の含有量が明らかに違って、鰻本来の味も旨みが強いです。」

「鰻は素材の目利きが一番大事ですが、割き、串打ち、焼きそれぞれも重要です。割きが下手だとタレがのらない。包丁も極めて切れ味するどく研いだ状態でなければ細胞がつぶれてしまいます。串打ちもただ刺すわけでなく丁寧にしなければ焼きムラが大きく出ます。」

鰻には皮目の肉が薄い部分と厚みがある部分がある。そこも加味して均一な焼き加減にするのも、「鰻屋 勢麟」の腕の見せどころだ。焼き工程では頭の中で焼き上がりをイメージしながら焼いている。脂質が多い部分は火から離し、ゆっくりと加熱できるように長く火を入れる。

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左:繊細に研がれた包丁は用途ごとに細かく使い分けられる/右:焼き加減は勢麟の鰻の命。今回の商品もかなり焼き方にこだわった。

「天然=美味しい」ではなく、浜名湖は養殖鰻も秀逸で、仕事次第で最大限の旨みが引き出せると長谷部氏は自負している。

「今回開発した商品は、そんな天然鰻に近い風味や味わいを養殖鰻でも実現した商品です。こだわったポイントは風味です。天然鰻に負けないような風味を養殖鰻でどう実現するか、そこに一番時間をかけました。養殖鰻も美味しいですが、天然ものに比べると皮目と肉の間にある脂質が焼くと特有のにおいを発するんです。その脂をきちんと抜くことがポイントになります。市販品は一度焼いた後に蒸すか、あるいはそもそも蒸すという工程をいれません。ですが今回の商品は、焼く前に蒸します。こうすることで余分な脂を抜いていきます。それから、しっかり焼き上げます。この際に皮目に素早く針で細かく穴を開けます。このひと手間が、余分な脂をより一層、抜きやすくしてくれるんです。今回製造会社さんのご協力で、一般的な蒲焼き工場とは工程も火力もぜんぜん違う、まさに「勢麟仕様」の焼きを再現していただきました。

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左:皮に針を刺すことで臭みの原因となる脂を抜いていく/右:しっかりと焼き上げることで皮と身の食感にメリハリが産まれる

もう一つこだわったのはタレです。タレは醤油、砂糖、出汁で作っています。この出汁はもちろん鰻から引いた「生出汁」を使用しています。醤油はタレの輪郭を出すための醤油です。砂糖は原糖という砂糖に精製する前工程のものを使用しています。サトウキビがもともと持っているミネラルが残っているので風味、やコク、まるみのあるしなやかな甘さがあります。またこの原糖は、養殖鰻の脂の臭い消すのに一役買っています。鰻の出汁は蒲焼に馴染みやすくなり、味の奥行きを出しています。

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左:鰻のあらを使って出汁をひくことで鰻本来の味を邪魔しない味わいに

浜名湖は養殖鰻も秀逸で、特に今回使用している浜名湖ブランド鰻「でしこ」は長谷部氏も認めた理想の味わいを実現している。

百二十年ものあいだ、鰻とともに生きてきた浜名湖の地。その伝統の中で磨かれ、専用の飼料と確かな手で育てられるのが、「でしこ」だ。
厳格な品質検査を二度もくぐり抜けたうなぎだけが、その名を冠することが許される。ふくよかな脂、しっとりとほどけるような身のやわらかさ。うなぎに生涯をかけてきた料理人・長谷部氏が「理想の養殖うなぎ」と称し、迷わずこのうなぎを選んだ理由がそこにある。「骨までもがやわらかく、口当たりが驚くほど澄んでいる」。その言葉に込められた信頼が、味わいの深さを物語っている。

CHEF’S COMMENTS

シェフからのひとこと

遠方にお住まいでお店に来ることが難しいお客様にも、『勢麟』のこだわりの鰻を味わって頂きたいという思いから商品をつくりました。

最大限、鰻のクセを逃がして旨みだけを閉じ込められるように工夫をしております。風味と香りを立てるようにしっかりと火入れをしておりますので口の中に入れた瞬間の香ばしさ、余分な脂のない味わいをぜひお楽しみください。

お店で実は密かな人気メニューとなっているのが、鰻タレを使った卵かけご飯です。鰻丼を食べ終わってお腹いっぱいのお客様でも、きれいに平らげてくださいます。鰻の旨みを存分に活かしておりますので、タレとお腹に余裕があればぜひお試しください。

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このお店の商品

名店のこだわりを知る

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勢麟 / 長谷部 敦成 氏

食材第一主義を貫き季節ごとに異なるコンセプトが楽しめる日本料理の極み

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仁修樓 / 上岡 誠 氏

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にくの匠 三芳 / 伊藤 力 氏

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京天神 野口 / 野口 大介 氏

趣向を凝らした料理と温かいおもてなしで人々を魅了する京都の名店。完全予約制。

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やまぐち / 山口 正 氏

完全紹介制にも関わらず2年先まで予約が埋まる京都祇園のイタリアンの名店。

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緒方 / 緒方 俊郎 氏

「ミシュランガイド京都・大阪2010」以来、二つ星を獲得し続ける京都の名店。

ビリヤニ大澤 / 大澤 孝将 氏

予約受付開始と共に即満席となる完全予約制のビリヤニ専門店。

カルパシ / 黒澤 功一 氏

1日24食限定で週4日営業という狭き門。スパイスカレー界きっての 予約困難店。

焼肉ジャンボ / 南原 範充 氏

 都内3店舗を展開する焼肉専門店で全国屈指の予約困難店。予約は常に1~2ヶ月待ち。

Nabeno-Ism / 渡辺 雄一郎 氏

「ミシュランガイド東京 2017」で一つ星、「ミシュランガイド東京 2019」から二つ星を獲得。

鳥しき / 池川 義輝 氏

「ミシュランガイド東京・横浜・鎌倉 2011」で一つ星を獲得。

カッチャルバッチャル / 田村 修司 氏

 「ミシュランガイド東京2023」でビブグルマンを獲得。

柳家 / 山田 和孝 氏

「ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版」で二つ星を獲得。

4000 Chinese Restaurant / 菰田 欣也 氏

四川料理の源流で30年間、研鑽を積んだ技術。

マンチズバーガー シャック / 柳澤 裕・裕美子 氏

国内外から高い評価を得ており、海外VIPも歓喜した名店。

シバカリーワラ / 山登 伸介 氏

カレー激戦区・三軒茶屋で常に行列が絶えない。TVにも多く取り上げられる人気店。

TACUBO / 田窪 大祐 氏

「ミシュランガイド東京2017」以来連続掲載。毎月、すぐに満席になる予約困難店。

とんかつ成蔵 / 三谷 成蔵 氏

「ミシュランガイド東京 2017」以来掲載(ビブグルマン)。とんかつ業界をけん引する名店。

銀座しのはら / 篠原 武将 氏

「ミシュランガイド東京 2018」から一つ星。「ミシュランガイド東京 2020」以降二つ星獲得。

金色不如帰 / 山本 敦之 氏

「ミシュランガイド東京 2019」以降連続で一つ星獲得。世界最高峰のラーメン店の一軒。