古くから陶器の町として栄えた岐阜県瑞浪市。食通たちが目指す【柳家】は、その市街地から30分ほど車を走らせた山あいの里にある。辺境までの道のりも、江戸時代後期の古民家を移築したという店の風情も、すべては美味しい出会いのためのプロローグ。
囲炉裏端で店主がもてなしてくれるのは、春は山菜、夏は天然鮎、秋はきのこ、冬は猪、鹿、鴨といったジビエと、山の恵みを味わう郷土料理だ。『ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版』で二つ星を獲得した、国内外からの予約電話が鳴り止まない名店。
柳家 山田 和孝 氏
やまだ・かずたか●1970年、岐阜県生まれ。23歳から岐阜県内の飲食店に勤務。サービスのノウハウを身につける。2000年から【柳家】に入り、先代が亡くなったことをきっかけに事業承継し、三代目主人となる。
ジビエの美味しさを広めたい、岐阜の郷土料理を通して日本の食文化を次世代に伝えたいとの思いから、猟師との交流を大切にし、丁寧に処理をされた質の高い山肉の追求に日々余念がない。ワインについての造詣も深く、シャンパーニュ騎士団のシュヴァリエに叙任されている。
柳家とは
直球だからこそ、鮮度の良い食材ありき
東京から最寄りの駅まで新幹線と電車を乗り継いで2時間半。さらにそこから30分タクシーに乗り、山間の道を登って行った先に2022年で創業76年目を迎えた【柳家】がある。
お店は完全予約制。基本的に予約は1組4人以上で一見さんはお断り。来店経験のある人でも予約のための電話が繋がらないことも。繋がったとしても予約したい日に席が空いているかは運次第。取材時点では約半年先まで空席がなく、ここ数年は狭き門がますます狭くなっている。
「1946年に祖母が飲み屋さんを開いたのが、うちの始まりです。囲炉裏のスタイルにしたのが私の父。先代が40年ほど前に小さな離れを造って炭火焼を振るまったんです。それが数年前にSNSで掲載されてから、一気に注目を浴びるようになって。私たちも思ってもみませんでした、ましてやこんな山奥で。」
3代目店主の軽妙な語り口もまた、この店の魅力の一つだ。古民家には囲炉裏を囲む掘りごたつ席の客間が6室あり、店主や料理人が客の目の前で山の幸を一品一品丁寧に焼き上げる。
「岐阜は海がありませんから、季節ごとの山の恵みを提供するんです。今採れるものしか出せないので、メニューは年間5パターンくらい。だからこそ、うちは本当に食材ありきです。先代のころから付き合いのある猟師さんが獲った本当に質の良い食材だけを仕入れ、調理法は昔から一切変えていません。
基本、炭火で焼いて味つけは塩か醤油ベースの継ぎ足しのたれのみ。味噌汁や鍋は自家製の豆味噌と、シンプルな分、食材にごまかしがきかないんです。とくにジビエや天然の渓流魚は最高のものを手にしていけるよう、猟師さんや仕入れ先との信頼関係を大切にしています。」
炭火はウバメガシの他に香り立つアオガシの2種の備長炭を使用し、素材ごとの特性を熟知し、美味しく食べるベストタイミングで焼き上げる。
「囲炉裏の炭火を挟んでお客様と相対する。お客様は仕上がりまでをダイレクトに眺めるのも醍醐味ですし、私たちもお客様と会話しながら焼き上げるのも楽しい仕事です。先々代から同じことをやっていますが、いい形で守り続けられているんじゃないかな。」
世界の人を魅了する“Japanese Gibier”
創業以来、【柳家】は地のものをいかに美味しく、そして命を余すところなくすべていただくということに、実直に向き合ってきた。
「郷土料理というのは非常にアバウトなジャンル。炭火で焼いてお出しするコースをお客様に認めていただき、確立できたところがあります。ジビエはフランス料理では究極の料理と言われていますが、日本ではマタギ(猟師)料理といった感じでどちらかというと、低い位置づけです。命もまた山の恵み。美味しく味わっていただくことで、山肉の評価を上げていきたいですね。
お客様に提供しながら、日本の伝統的な食文化の一つである郷土料理の魅力を若い世代や海外からのお客様まで、幅広く伝えていけたらと思います。」
コースには炭火料理の他、きのこ鍋、猪鍋、鴨鍋といった季節の鍋も味わえる。
「これが海外からのお客様にも好評で。とくに赤味噌ベースの猪鍋なんかは“miso-soup”と問題なく受け入れていただいています。猪肉からも良いお出汁が出て、バランスも抜群なんです。」
2019年には『ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版』で二つ星を獲得するなど国外からも高い評価を受けている。岐阜の山奥にありながら、「昔から変わらないスタイルの郷土料理」で世界を魅了し続ける。
CHEF’S COMMENTS
シェフからのひとこと
この鍋は、猪肉の出汁が旨みとして相まった豆味噌を使ったスープが実にウマいんです。
今回一番こだわったのはやはり、猪鍋の基盤を構成する、“熟成感を感じられる豆味噌ダレ”です。大豆が発酵する時の“香り”や“旨味”が猪鍋のキモとなりますので、ここに細心の注意を払って仕上げました。
こだわりの2点目は猪肉そのものです。猪肉は畜産とは異なる自然環境が生み出した滋味深い味わいが特徴です。猪鍋において猪肉は出汁としての役割も担っており、これが猪鍋の旨さを作っています。また肉本来の味もしっかりと味わって頂きたいので、今回は旨味の多いよく脂の乗ったバラ肉と、柔らかいお肉本来の味を楽しめるモモ肉を使用しました。
遠方にお住まいでご来店が難しかったり、なかなか予約が取れないお客様にも、当店の味を楽しんでほしいと作った商品です。ぜひこの機会にこだわりの味をお楽しみください。
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